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環境倫理関係

[ 岩波 応用倫理学講義2 環境 ]
越智貢ほか編

分野 環境 - 環境倫理 難易度 初心者向け(教養課程学生向け)
出版社 岩波書店 発行年月 2004年5月
値段 3,200円+税 ISBN 4000267159
ページ数 300ページ 判の大きさ A5判

応用倫理の議論を講義形式でまとめた教科書シリーズの第2巻。環境倫理を扱う本巻は、丸山徳次氏による「講義の7日間」、6人の論者によるセミナー、基本問題集、シンポジウム、環境倫理年表からなる。環境倫理の教科書としての本書の特徴は、海外の環境倫理研究の紹介にとどまることなく、水俣病という日本で起こった環境問題を議論の中心に据えている構成にある。

日本には水俣病という、われわれが絶えず立ち戻るべき問題があるにもかかわらず、従来の環境倫理は、こうした諸問題の倫理学的考察を重視してこなかった。本書は全体を通じて、具体的な問題に取り組むための環境倫理の方法論を展開している。丸山徳次氏は、講義の第4日以降で環境正義、法的責任の限界、行政および科学の責任といった様々な切り口から水俣病を分析している。「講義の7日間」の後のセミナーでは、医者として長年水俣病に関わってきた原田正純氏は、水俣病に類似した世界各国の水銀中毒について、遠藤邦夫氏は水俣病によるコミュニティの崩壊とその再生への取り組みについて紹介している。さらに、水俣病だけでなくダイオキシンや里山、ダム建設が事例として取り上げられており、一貫してケース・スタディに基づいた構成になっている。

かといって、具体的な事例研究が中心とはいえ、これまでの理論的研究の蓄積が無視されているわけではない。「講義の7日間」では、環境倫理の一連の議論が平易な文章で解説されている。その内容は、環境倫理が当初中心問題としてきた人間中心主義と人間非中心主義の議論から、環境倫理学者がその議論の拠りどころにしてきた米国の森林管理官アルド・レオポルドの著作の解釈とその問題点、環境プラグマティズム、環境正義、予防原則まで及ぶ。わずか70頁弱の分量でこうした環境倫理の歴史と問題、新しい論点がテンポよく簡潔にまとめられているので、環境倫理に馴染みのない読者も応用倫理の一分野としての環境倫理の全体像をイメージしやすい内容になっている。

また、本書の最後では水俣病の経緯と国内外の環境問題に関連する史実、重要文献の出版年が「環境倫理年表」としてまとめられており、冒険的ではあるが初心者の学習や知的好奇心への配慮にも手を抜かない優れた教科書である。