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環境倫理関係

[ 動物からの倫理学入門 ]
伊勢田哲治

分野 環境 - 動物倫理 難易度 初心者向け(教養課程学生向け)
出版社 名古屋大学出版会 発行年月 2008年11月
値段 2,800円+税 ISBN 9784815805999
ページ数 368ページ 判の大きさ A5判

環境倫理も(応用)倫理学の一分野である以上、カント主義や功利主義といった倫理理論と関係しているわけだが、環境倫理と伝統的な倫理学との関係は見えづらい。本書は、動物倫理の議論を通じて基本的な倫理学の議論を分かりやすく説明する試みである。動物倫理を環境倫理の議論に入れるべきかどうかについては研究者たちの間でも賛否両論あるが、本書のスタンスは、人間の動物に対する扱い――工場畜産や畜産・肉食、動物実験など――についての倫理的問題の考察から、倫理学の理論そのものの問題が見えてくるといったものだろう。本書は倫理学の教科書であり、動物倫理だけについて論じているわけではないが、動物倫理と倫理学の考え方の両方を一冊で学べるという他の著作にはない優れた特徴がある。

第一章から第四章までからなる「第I部基礎編」では、功利主義や義務論、契約論、自然主義、指令主義など倫理学の基本的な考え方が大まかに解説され、それらの立場がどのように動物の問題と関係しているのかが説明されている。様々な倫理理論の解説を徹底することで、立場次第で、動物への配慮の根拠が変わってくるという点が読者に伝わりやすくなっている。「第II部応用編」では、個々の具体的な動物倫理の問題が扱われる。第五章で動物実験、第六章で畜産・肉食、第七章で野生動物保護といった動物倫理の核を成す主要な論点を事例に、第I部からさらに進んだ倫理学の議論を解説している。なお、本書では一般的な入門者向けの倫理学の教科書ではあまり扱われないダーウィニズムやゲーム理論、厚生経済学などにも簡単に触れられている。

このように、本書には動物倫理を知る上での基本的な情報が盛り込まれ、現代倫理学の議論を広く知るには十分な説明が当てられている。動物の権利運動と動物実験については、これらが社会的に問題になった歴史的な経緯や各国の関連法なども説明されている。また、動物実験と菜食主義については、ニュートラルな視点から様々な立場が紹介されているし、野生動物の議論では生命中心主義や生態系中心主義といった環境倫理一般の議論も触れられている。本書は応用倫理と倫理学との関係を理解するには絶好の教科書といえるだろう。