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環境倫理関係

[ 環境倫理学 ― 環境哲学入門 ]
ジョセフ・R・デ・ジャルダン(新田功他訳)

分野 環境 - 環境倫理 難易度 初心者向け(教養課程学生向け)
出版社 出版研 発行年月 2005年2月
値段 3,800円+税 ISBN 4822602583
ページ数 430ページ 判の大きさ A5判

これまでの環境倫理の議論を包括的に一冊にまとめた入門書。もともと大学生向けの教科書として執筆された著作なので、環境倫理の個々の論点が広く解説されている。そのため、邦訳では400頁を越える大著であるが、教科書ということに細心の注意を払って執筆した著者の姿勢が徹底しているので、低めの難易度に仕上がっている。

本書の第一の特徴は、環境倫理の教科書でありながら、冒頭の第1部の2つの章を環境倫理の基礎にある哲学・倫理学の基盤概念の説明に割いている構成にある。一般的な環境倫理の教科書は、倫理学の理論的な説明については簡単に触れる程度であるが、本書は倫理相対主義や目的論、功利主義、義務論、社会正義といった倫理学の説明にひとつの章を割り当てている。この倫理学説の説明によって、環境倫理で使われる倫理学の専門用語の意味や倫理学説と環境問題との関係が理解しやすくなっている。

本書の第二の特徴は、「論点の開示」と題された各章の論点に関連する事例の紹介を章の冒頭に組み入れている点である。その内容は、科学技術や環境政策、環境運動など多岐に渡る。この解説は、実際の環境問題とその背後で論じられる環境倫理の議論を円滑に繋げる役割を果たしている。そして、各章の最後に練習問題が設けられているのも本書の特徴である。ひとつの章につき5~7題の練習問題があるので、授業やゼミでの議論や意見交換のテーマに合わせて取り上げることもできる。

このように、本書は非常によくできた教科書として評価できるが、環境倫理の体系的な解説書としても優れている。第2部は、伝統的な倫理学を環境問題に応用した環境倫理として未来世代への責任、自然物の道徳的地位、動物倫理について解説し、第3部では伝統的な倫理学を越えて形而上学や政治に踏み込む環境倫理として、内在的価値の議論や土地倫理、エコフェミニズム、環境プラグマティズムといった各論が見落とされることなく取り上げられている。引用されている論文も幅広く、かつ整理された文献案内もあるので、一歩進んだ学習や研究資料としての使い勝手もよいと期待できる。また、いくつかの用語については、一般的な環境倫理研究とは異なる訳出になっているので、原著と照会しながら精読するといった用途もあるだろう。