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環境倫理関係

[ エコロジー思想と現代 ― 進化論から読み解く環境問題 ]
入江重吉

分野 環境 - 環境倫理 難易度 中級者向け(専門課程学生向け)
出版社 昭和堂 発行年月 2008年10月
値段 2,700円+税 ISBN 9784812208427
ページ数 256ページ 判の大きさ A5判

本書は、現代のエコロジー危機の問題を植民地主義、古典的エコロジー思想、現代エコロジー思想、環境倫理という様々な観点から論じた著作である。環境倫理の一般的な議論は、アルド・レオポルドの「土地倫理」やレイチェル・カーソンの『沈黙の春』に起源を持つが、本書は思想史的にさらにダーウィンの進化論まで時代を遡り議論を展開している。

本書の前半第I部は、3つの章に跨って現代のエコロジー危機とエコロジー思想の歴史的展開を説明している。第1章では、世界史の観点から現代のエコロジー危機への道のりを辿る。著者は地球環境問題の起源を西欧列強の植民地支配に見出し、現在の環境破壊を解説している。第二章は、レオポルドの土地倫理とカーソンの化学農薬の使用への警告という古典的エコロジー思想について論じているが、著者は彼らのエコロジー思想がダーウィンの進化の思想から強い影響を受けていると指摘する。そして、第三章では、エコロジー神学、ボールディングのエントロピー経済学、エーリックの人口論、コモナーの「エコロジーの四原則」、ディープ・エコロジー、エコ・フェミニズムといった現代エコロジー思想を説明している。

続く第II部では、ダーウィンの進化論を手がかりに、3つの章で自然保護について論じられている。第4章では、自然の保全と保存の対立について論じられている。著者は、自然保護の現代的課題は、原生自然の保存(preservation)と「賢い利用」という保全(conservation)の二項対立ではなく、人為的介入を通じた自然環境の進化史的な仕組みの保存にあると主張する。次の第5章は、ジンバブエとザンビアにおける野生生物の管理と日本のコウノトリの野生復帰事業、アメリカにおけるオオカミの再導入、動物園の役割を事例に、野生生物の保全と野生復帰の議論を取り上げている。そして、最後の第6章では、人間中心主義と人間非中心主義という環境倫理の根深い対立図式について、自然や生態系との共生あるいは共存という見地から自然の価値の問題を考える議論を提起している。

本書は研究書であるので教科書としてはややレベルの高い仕上がりになっている。しかし、論点ごとのまとまりもよく、専門用語の解説も親切なので、初心者も挑戦して一読してみるに値するだろう。