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生命倫理関係

[ ケアの生命倫理 ]
平山正美・朝倉輝一

分野 ケア - 入門 難易度 初心者向け(教養課程学生向け)
出版社 日本評論社 発行年月 2004年4月
値段 2200円+税 ISBN 9784535982291
ページ数 172ページ 判の大きさ A5判

本書は特に医療現場におけるケアについて、様々な立場から学際的にアプローチしたもので、ケアについて関心を持つ人への手頃な入門書となっている。中でも「様々な立場から見た」ということを重視しているため、単に介護の技術としてのケアに留まらず、哲学や倫理学の視点からケアそのものの意味が幅広く検討されている。しかし抽象的な議論のみに終始するのではなく、たとえば「現場看護師のケアに対する率直な意見」や「看護学生時代の経験」などの現実の話題もふんだんに盛り込まれており、適度に理論と実践のバランスがとれた構成となっている。執筆者の出身も看護学や医学、哲学、倫理学と幅広い。読者は本書を通じて、ケアの雰囲気をつかむことからはじめ、最終的にケアの本質とは何か、ということを考えることができるだろう。

本書は全八章からなる。看護士らによる実体験が語られる章は医療に従事する者であれば、誰もが経験するであろう葛藤や困惑が描かれる。ターミナルケア、メンタルケアなど、ケアという単語自体はよく聞くが、実際には何を意味するのかわからない、患者の世話や看護の活動とケアは何が違うのか。そういった疑問に、この本は臨床の現場の人間の目線から答えようと試みている。末期癌の患者、透析を受ける患者など、さまざまな事例での筆者らの試行錯誤を追体験することで、読者はケアとは何なのか、医療を司る人間は何を求められているのかを、考えさせられる。

一方、哲学的、倫理学的な分析の章では、ケア論の歴史的な発展の経緯や介護、ジェンダーとの関係、現代医療の中でのケアが占めるべき位置、特に終末期医療においてケアはどのような意味を持つか、などの幅広い論題がわかりやすく解説される。これらを読むことによって、ケアとは何なのかについての基礎的な感触は掴めるだろう。またこれらの章を読んでから、改めて具体例を見ることで、より深い理解を得ることも期待できる。

本書は具体例に富んでいるが、ケアという概念の性格上、実際にこのような場面ではこうせよと指示してくれるものではない。しかしその代わりに臨床においてマニュアル的な看護に疑問を感じて立ち止まったとき、その疑問は正しいのだと後押ししてくれる一冊である。ケアについてより深く考えるための第一歩として活用するとよいだろう。