応用倫理のデータベース

Home > 応用倫理のデータベース > 環境倫理関係 > 環境 ― 文化と政策

連絡先

〒060-0810
札幌市北区北10条西7丁目
北海道大学大学院文学研究院応用倫理・応用哲学研究教育センター

Tel: 011-706-4088

E-mail: caep[@]let.hokudai.ac.jp

※@マークの[ ]を消したものがアドレスになります。

キャンパスマップ

環境倫理関係

[ 環境 ― 文化と政策 ]
松永澄夫編

分野 環境 - 環境政策 難易度 初心者向け(教養課程学生向け)
出版社 東信堂 発行年月 2008年3月
値段 2,300円+税 ISBN 9784887138278
ページ数 316ページ 判の大きさ B6判

東信堂から刊行されている松永澄夫編集の論文集『環境』シリーズの第3弾。既刊の『環境 ― 安全という価値は…』(2005年)および『環境 ― 設計の思想』(2007年)に続いて、本書は全体を通じて環境政策を地域に根差した文化と両立させる理論とモデルの構築を試みている。

本書では3人の著者が環境倫理について論じている。第2章「「自然環境」問題における「文化」の意味」は、自然環境について語る際に引き合いにされる「文化」概念の歴史的変遷を追跡している。著者によると、「文化」という概念は「文明」という概念と対立することで「自然」と親和性の高い概念になった。著者はこの自然と文化の接近を、ソローとミューア、フランスの「自然景観保護法」のなかに見出す。

第3章「現場から環境倫理を切り開く」では、「環境保護」か「開発」かをめぐって二極化の状況にあった米国カリフォルニア州のマトール川流域の地域住民たちが、この対立を超えて彼ら主導で流域を保全してきた取り組みが詳しく紹介されている。環境問題の解決には「環境」か「開発」ではなく、その現場としての「地域社会」という切り口もある。著者は、こうした環境問題の現場としての地域社会から生じる規範を新たな環境倫理として位置づける。

第9章「生物多様性の価値を組み立てる」は、環境プラグマティズムと保全生態学の観点から、生物多様性を維持すべき理由を提起する試みについて論じている。著者は、この試みの中で、環境プラグマティズムの第一人者ブライアン・G・ノートンの議論を詳しく取り上げている。環境プラグマティズムは現代の環境倫理の議論で中心的な役割を担っているにもかかわらず日本ではほとんど紹介されていないので、本章の紹介は英文で環境倫理を読んだことのない読者が環境倫理の新しい潮流を理解するのに有益である。

環境倫理に触れられているのは以上の3つの章であるが、その他にも本書は世界遺産や風力発電、資源管理、動物園の飼育事業などといった様々な環境問題が、地域社会の生活や文化との関わりという観点から論じられている。各章とも文章が分かりやすく論点も明晰なので、教科書に適した論文集と言えるだろう。