環境倫理関係
[ 環境の倫理 ]
クリスティン・シュレーダー=フレチェット編(京都生命倫理研究会訳)
分野 | 環境 - 環境倫理 | 難易度 | 中級者向け(専修課程学生向け) |
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出版社 | 晃洋書房 | 発行年月 | 上1993年6月/下1993年11月 |
値段 | 上3,600円+税/下3,900+税 | ISBN | 上4771006415/下4771006423 |
ページ数 | 上355ページ/下327ページ | 判の大きさ | A5判 |
環境倫理の古典的議論を網羅する論文集。救命ボート倫理や世代間倫理、動物倫理、環境正義、科学技術の環境影響に関する倫理的問題など環境倫理の基本的な論点についての主要論文が所収されている。本書は四部から構成されている。
第一部は、環境倫理の理論的前提を扱っている。第一章では、環境倫理と古典的倫理理論との関係が素描される。そこでは、西洋的な道徳的価値が環境破壊を助長してきたと考える見解と、人間に危害を加える環境の悪化を阻止する行為を導くには従来の倫理的枠組みで十分であるという二つの見解が取り上げられている。次の第二章では、「フロンティア倫理」と「救命ボート倫理」、「宇宙船倫理」という3つの比喩的な地球環境のモデルについて論じられている。
第二部では、第三章から第七章まで世代間倫理と自然物の権利、動物の権利論、人間の快適な環境への権利、資源の枯渇と消費を制限する義務といった環境倫理の主要な論点が各章で扱われている。特に、第三章のピーター・シンガーの「動物の解放」は、動物の道徳的地位についての主要な議論である。また、第四章のシュレーダー=フレチェットの論文は、世代間の公正さという正義論の観点から世代間の倫理的関係を基礎づける試みである。
第三部では、環境と経済・社会との関係が論じられている。第八章は、環境保護と経済成長のどちらを優先するかについて対立する二つの議論を紹介している。次いで第九章では、貧しい人たち、特に黒人が劣悪な労働環境や生活環境に脅かされている問題が論じられている。
最後の第四部には、「現代のディレンマ」として、人口増加と農薬、原子力発電の倫理的問題を扱った論文が所収されている。第十章では、人口抑制のために出産を選択する自由を制限すべきか否かという点で見解の異なる二つの議論が取り上げられている。次の第十章のシュレーダー=フレチェット「農薬の毒性」は、農薬のリスク評価に伴う倫理的問題を検討した論文としては秀逸である。そして最後の第十一章では、エネルギー需要の増加と原子力発電の危険性という今もなお重要な問題が論じられている。
本書の初版は1981年ということから議論の内容も使われているデータも古いが、邦語で読める環境倫理の包括的な論文集としては今もなお重宝できる文献である。