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環境倫理関係

[ 里山学のすすめ ― <文化としての自然>再生にむけて ]
丸山徳次・宮浦富保編

分野 環境 - 環境管理 難易度 中級者向け(専門課程学生向け)
出版社 昭和堂 発行年月 2007年6月
値段 2,200円+税 ISBN 9784812207383
ページ数 392ページ 判の大きさ A5判

かつての主流の環境倫理は、人間以外の生き物や生態系の内在的価値(それ自身としての価値)を強調し、そうした生き物を人間のために利用する立場を、環境破壊を助長する人間中心主義と非難してきた。この見解によれば、人間は自然あるいは生態系に介入してはならないことになる。しかし、自然の絶対的な「保存」が常に自然保護に役立つわけでもなければ、人間による自然の利用が必ずしも環境破壊に結びつくわけでもない。ある種の自然環境では、人の手が入ることで多様な種と生物が存続してきた。本書で提起されている「里山学」は、「里山」という人間と自然とが関わる場を体系的に分析および評価する試みと言える。

本書は龍谷大学で開講された講義に基づく論文集である。様々な見地から里山と人間の生活との関係が論じられ、400頁近い大著になっている。第I部「里山のいま、むかし」は、里山の子どもの遊び場としての側面、里山の森林管理の歴史、江戸時代に描かれた里山の植物を紹介している。第II部では、環境倫理学、日本語学、考古学、環境社会学、法学の各々の観点から「里山」へのアプローチを展開している。環境倫理の観点から里山について論じた章において、著者の丸山徳次は、環境正義論と環境プラグマティズムによる人間非中心主義の環境倫理への批判を説明した後、自然vs.人間(または文化)という二項対立を克服する「里山の環境倫理」を提起している。また、第II部には、食用・非食用植物のアク抜き技術の調査から考察される縄文時代の里山利用や、治水事業が環境保護の観点から大きな問題になった長良川の「里川」としての側面、中国の少数民族に見られる日本の里山に似た山の利用など、読者の関心を惹く事例が分かりやすい文章で紹介されている。次の第III部には、ホタルや川魚などの水辺の生物、クモ、サルといった里山に生息する動物についての研究が紹介されている。単にこうした生物の生態が説明されるだけでなく、こうした生物と人間の文化との関わりについても触れられている。そして、最後の第IV部では、里山の環境保全を行う実践を、里山の所有者、生態学の研究、参加型の活動といった観点から論じている。

本書は、里山についての様々な研究を通じて、足元の日本から環境倫理を考えるのに有益な情報を提供してくれる一冊である。