環境倫理関係
[ 自然との和解への道(上・下) ]
クラウス・マイヤー=アービッヒ(山内廣隆訳)
分野 | 環境 - 環境倫理 | 難易度 | 中級者向け(専門課程学生向け) |
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出版社 | みすず書房 | 発行年月 | 上2005年5月/下2006年1月 |
値段 | 上下各2,800円+税 | ISBN | 上462208163/下4622081644 |
ページ数 | 上304ページ/296ページ | 判の大きさ | B6判 |
日本に紹介される環境哲学・環境倫理学のほとんどはアメリカでの研究であるが、本書は環境先進国として知られているドイツの哲学者によって執筆された著作の翻訳である。至る所で言及されているが、著者のマイヤー=アービッヒは哲学者であるだけでなく物理学者でもあり、また、エネルギー政策をはじめとする実際の環境政策に関わってきた人物である。本書で著者は、こうした多岐に渡る活動の経験を踏まえて、環境問題は個別的にではなく全体的に取り組まれるべきであるという姿勢を強調している。
本書において著者は、従来の環境政策は失敗だったと考えており、なぜ既存の環境政策が環境問題を現実的に解決する実行力を持たないのか詳細に説明している。従来の環境政策は一面的かつ限定的なものであり、応急処置的にすぎず、(自然との和解には) 不十分なものである。著者によれば、その失敗の原因を人間中心主義である。人間中心主義は環境倫理では馴染みある考えであるが、本書では「いかような解釈も可能にする」(上80頁)考え方として非難されている。つまり、人間中心主義に基づく環境政策は、結局は人間に都合のいいように経済成長や繁栄を前提に策定され、最終的に失敗する。だがここで、マイヤー=アービッヒは一部の環境倫理学者のように短絡的に非人間中心主義を賛美する戦略は取らない。彼の戦略は、自然環境を人間もそれとともに存在する「自然的共世界」と見なし、自然的共世界と人間を断絶することなく、社会や法律、学問、われわれ自身の態度を自然との和解という規範に相応しいものにするべく議論を展開する。
本書は、環境政策の根本的な変更を訴えていることからも理解できるように、環境問題への政治的アプローチに重点を置いている。こうしたことから、本書は「環境倫理」というよりも「環境政策を基礎づける哲学的考察」についての著作であり、環境問題に関連する幅広い分野の講義で教科書として使うことができると思われる。また、翻訳としては非常に読みやすいというのも本書の特徴である。ただ、マイヤー=アービッヒの考察は、古代ギリシアの自然哲学や近世哲学(ベーコン、デカルト、カント)など膨大な哲学的知識との関連で展開されているため、まだ哲学の授業を受講していない教養課程の学生には難解であると思われる。