環境倫理関係
[ なぜ生態系を守るのか? ]
松田裕之
分野 | 環境 - 環境生態学 | 難易度 | 初心者向け(教養課程学生向け) |
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出版社 | NTT出版 | 発行年月 | 2008年12月 |
値段 | 1,900円+税 | ISBN | 9784757160279 |
ページ数 | 224ページ | 判の大きさ | B6判 |
本書は、いわゆる環境倫理ではなく生態学の入門書である。しかし、本書が扱っている問題は環境倫理の点から見ても面白いものだろう。そもそも「なぜ生態系を守るのか?」は環境倫理でも重要な問いである。この問いに答えるために、環境倫理の研究者たちが生態系の不可侵の内在的価値や固有の価値(そのものとしての価値)を強調してきたことはよく知られている。本書は、こうした価値を強調するアプローチとは違って、人間活動の生態系への影響の評価、ならびに持続可能な資源利用の模索という実践的な観点から生態系を管理する方法を概説している。
本書の説明は非常に丁寧である。本書は第1章から第4章で、それぞれ漁業資源、絶滅危惧種、野性動物、化学物質の諸問題について現状の科学データ、資源管理の理論、制度上の問題を解説している。扱われている話題は理系のものであるが、文系の読者にも分かりやすい親切な説明が徹底している。例えば、資源量と漁獲量の関係を銀行の預金と利子に例えた説明がある。また、マグロの資源量やシカなどの野生動物の管理、風力発電への鳥類の衝突といった一般的に関心の高い事例が取り上げられているのも、本書を魅力あるものにしている。
また、本書の魅力は単に様々な生態系管理の問題を列挙するのではなく、持続可能な資源利用やリスクの低減のために社会がどのような対策を講じるべきか問いかけている点にある。捕獲や汚染による人為的な生態系への影響もあれば、里山のように放置することで生態系が損なわれることもある。本書は、環境生態学の知識や方法だけでなく、こうした情報を取り入れて環境保全に社会が包括的に取り組む重要性を伝えてくれる。
最終章で著者は、生態系管理と科学者の積極的な関与の必要性、アマミノクロウサギ訴訟から見る自然の公共的価値を守ることの難しさ、生態系に関わる価値の多様性、環境保全のみを考えるのではなく環境正義も含めて総合的に取り組む必要性という4つの倫理の問題を生態学者の視点から論じている。このように本書は様々な議論を盛り込んでいるが、図や写真もあり読みやすい文章なので、環境問題に興味のある人には是非とも目を通してほしい一冊である。