環境倫理関係
[ 環境思想 ― 歴史と体系 ]
海上知明
分野 | 環境 - 環境思想 | 難易度 | 上級者向け(大学院生向け) |
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出版社 | NTT出版 | 発行年月 | 2005年8月 |
値段 | 2,600円+税 | ISBN | 475714122X |
ページ数 | 289ページ | 判の大きさ | B6判 |
本書は、今日まで多岐に渡って展開した環境思想を概説した著作である。様々な環境思想について論じられているにもかかわらず、論点が的確で分かりやすく説明されている。
第一章では、今日の環境問題の起源をヨーロッパの歴史から読み解いている。著者によると、土地生産力の低さと貧困はヨーロッパにおいて自然の克服という課題を引き起こし、この「自然克服」思想がアフリカ・アメリカ大陸への進出や産業革命に繋がり、環境破壊が広まった。第二章は、環境思想の起源であるか否かについて注目を集めた話題としてキリスト教とマルクス(主義)、マルサスを取り上げている。第三章では、現代の環境主義の源流になった学術潮流として、ロマン派と社会派の台頭、経済学の進歩、エコトピア、ピンショーとミューアの保全=保存論争、レオポルドの土地倫理について論じている。
第四章以降は、第二次大戦後の現代環境思想について論じている。第四章では、現代環境思想が展開した経緯が年代ごとに素描されている。著者は、1960年代にレイチェル・カーソンが様々な環境思想の下地を築き、1970年代には精緻な理論構造を持った環境思想が現れ、1980年代にかけて自然への権利付与やディープ・エコロジーなど様々な立場に分化したと分析している。次の第五章から第九章は、多様化した環境思想のそれぞれの立場について論じている。第五章では技術による環境問題の解決を主張するテクノセントリズムが取り上げられ、その立場が環境に関して楽観的な豊饒主義と環境への配慮と現状の生活の維持の両立を説く環境管理派に分かれていると指摘している。第六章では、エコセントリズムを現状に対して要求される変化の激しさに従って穏健派と急進派に区分する議論を展開し、「宇宙船倫理」やシューマッハの「スモールの倫理」、「救命ボート倫理」、「世代間倫理」などを取り上げている。そして、第六章から第八章にかけて、社会派エコロジー、自然の権利派、ディープ・エコロジーといった環境倫理でも馴染み深い問題が論じられている。また、第十章でエコロジー思想の政治学や経済学、文学、市民運動、フェミニズムへの影響を概観し、最後の第十一章では日本思想に見られるエコロジー思想について論じている。このように、本書は研究書であるが、環境思想についての幅広い知識を読者に与えてくれる一冊である。