企業倫理関係
[ CSR 企業と社会を考える ]
谷本寛治
分野 | 経営 | 難易度 | 中級者向け(専修課程学生向け) |
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出版社 | NTT出版 | 発行年月 | 2006年6月 |
値段 | 1600円+税 | ISBN | 9784757121799 |
ページ数 | 280ページ | 判の大きさ | B6判 |
著者はCSR(Corporate Social Resposibility:企業の社会的責任)に関して多くの著作がある経営学者である。
CSRは2003年ごろから我が国で盛んに論じられるようになった企業倫理のフレームワークであるが、その具体的内容や意義に関してはまだ明らかになっているとは言い難い。企業はどのようなことをすれば社会的責任を果たすことになるのか。本書では企業と社会の関わり合いに着目することによってこの問題を解明し、今社会から求められている企業像を明らかにする試みがなされている。
谷本はCSRを「企業活動のプロセスに社会的公正性や倫理性、環境や人権への配慮を組み込み、ステイクホルダーに対してアカウンタビリティを果たしていくこと」と定義した上で、企業と社会の関わり方に応じてCSRを①経営活動のあり方、②社会的活動そして③社会貢献活動の3つの次元から明らかにしていこうとする。この分析枠組みは企業と社会の関わりを見つめるところから導き出されたもので、非常に興味深い。
このような分析枠組みの独創性に加え、以下の3点の特徴が本書を非常に斬新なものとしている。第一の特徴は、企業倫理に関する企業のビジネスモデルが豊富に紹介されていることである。SRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)のように確立したモデルからコーズ・リレイテッド・マーケティングのような比較的新しいモデルまで、企業倫理の実践活動について解説されているのは本書のひとつの魅力である。第二に、CSRが成功するためには、企業の努力のみならず、企業にアカウンタビリティの実践を求めていく社会(市民)の働きかけが重要である点を強調している点が特徴的である。これは企業の社会的責任を問うことは最終的には社会全体の責任負担を考えることに繋がるという最近の倫理学系のビジネス倫理学の思潮と通じるものがある。第三にCSRを最終的には持続可能な社会の実現のための必須要素と考える点が特徴的である。持続可能な社会の実現はマクロな社会政策の目標であるが、企業の活動はこの目標の達成に大きな影響力を有しており、そのために果たす役割は大きい。ビジネス倫理をこのような大局的な観点から考える研究はまだ少数にとどまっており、この方面での研究を促進するという意味でも本書の意義は大きいといえよう。