企業倫理関係
[ CSR入門 ]
岡本享二
分野 | 企業 | 難易度 | 初心者向け(教養課程学生向け) |
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出版社 | 日本経済新聞出版社 | 発行年月 | 2004年12月 |
値段 | 830円+税 | ISBN | 9784532110406 |
ページ数 | 203ページ | 判の大きさ | 新書 |
ビジネス関連の入門書や概説書を数多く出版している日経文庫の中で、出版以来ロングセラーを続けているCSR(企業の社会的責任)の入門書である。著者は当時日本アイ・ビー・エム社の環境経営室長を務められていた実務家である。
新書版203ページのコンパクトな本でありながら、盛り込まれている内容は多岐に渡っており、入門書としては十分すぎる内容といえる。企業のCSRへの取組事例はもちろん日本の商人道に見られるCSRの萌芽や、世界各国の政府・企業のCSRに対する取り組みなどCSRに関する実社会での動きを幅広く知ることができる。
本書でも述べられているが、CSRについて語る際にもっとも重要なことは、CSRの意義や目的をどこに見出すかということである。CSRについては現在でも統一された明確な定義がなく、極端に言えばあらゆる企業活動をCSRに結びつけて語ることができる。またCSRに冠して明確な意義付けができていないような解説書では、単に企業の活動を羅列することに終始することも多く、このことがCSRをますます総花的なものに貶めてしまう恐れがある。
本書の特徴はこのCSRの意義が極めて明確に示されている点にある。筆者の見解ではCSRの究極の目的は生物多様性の維持、すなわち生態系の維持にある。通常CSRは、企業は経済的に貢献するのみならず、社会問題や環境問題にも貢献するべきだといういわゆる「トリプル・ボトムライン」の考え方に基づいて説明されることが多いが、筆者は生態系の維持はこの3つの要素に優先するCSRの最重要課題であると主張する。この主張は企業活動が地球上の生物の存亡に大きなインパクトを与えるに至っているという認識を反映しており、極めて説得力を持つとともに、現在の状況に深刻さを示すものといえよう。
また、筆者の主張でもう一つ注目すべき点は、現在のCSRの標準的な概念モデルともいえるトリプル・ボトムラインに代わる新たなモデルを提唱していることである。トリプル・ボトムラインで企業が責任を負うべき対象とされている経済、社会、環境の3要素のほかに、筆者は人間と生態系を付け加え、このモデルを「ペンタゴンネット」と呼ぶ。このモデルは個々人の生活の充実の観点から社会と人間を分離し、先に述べた生態系の特別な重要性に鑑み、環境と生態系を分離して構成されたものであり、野心的な試みといえよう。
CSRについて概要を網羅的に知りたい初心者にとっては格好の入門書である。