企業倫理関係
[ ビジネス・エシックス グローバル経済の倫理的要請 ]
リチャード・T・ディジョージ(永安幸正+山田經三 監訳)
分野 | 経営 | 難易度 | 中級者向け(専修課程学生向け) |
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出版社 | 明石書店 | 発行年月 | 1995年10月 |
値段 | 6000円+税 | ISBN | 9784750307343 |
ページ数 | 728ページ | 判の大きさ | A5判 |
アメリカ企業倫理学の草分けであるリチャード・T・ディジョージの教科書『Business Ethics』第三版の翻訳である。
まずその厚さに圧倒されるかも知れない。上下二段組726ページのボリュームは圧巻である。しかし訳文は平易であり、読みやすい。またアメリカのビジネス倫理の教科書は、様々な人が書いたその分野の主要な論文とケース・スタディを中心に編集されたいわゆる「リーディングス」と言われる形式が主流だが、本書の論述は全てディジョージの手になるものであり、記述や議論の展開の一貫性という面では優れた教科書であるといえよう。
構成は第一章から第六章までが倫理学理論に関する説明で、それ以降に章で個別の問題を扱うという形になっている。第七章ではアメリカ資本主義が道徳的か反道徳的かという議論を検討しているが、ビジネス倫理で経済体制の優劣の問題を取り上げることは珍しく、一読に値する。 個別問題に関しては、企業倫理で問題となった分野は満遍なく取り上げられており、ケーススタディなども適宜織り込まれている。個別問題における必読箇所はやはり第十章の内部告発であろう。そこで提示されている内部告発の正当化と義務化に関する5条件は、もはや内部告発の道徳性の評価基準としては古典的スタンダードといえる。
しかし全般的に本書を読む際に留意すべきことは、本書の主な目的は「道徳的な問題に知的に取り組み、社会やビジネス活動の道徳性に関して現在行なわれている論争に参加するのに必要とされる倫理の技術的側面」(「序文」4ページ)を紹介することにあるということである。この意味で本書ではビジネス倫理に関して特定の倫理学的観点から実質的議論を展開するというよりは、個別の倫理的問題に関する論点整理と対立する意見の紹介に力点が置かれている。
以上のような本書の特徴を踏まえれば、読者は本書に対して隅から隅まで熟読玩味するというよりは、百科事典のように興味のある問題について参照するというスタンスで向き合う方が適している書物かもしれない。
なお本書は原著第三版の翻訳であるが、原著の方は改版が進んでいるので、最新の問題に対する研究を行なう場合には原著にあたることをお勧めする。