企業倫理関係
[ ビジネス倫理学の展開 ]
宮坂純一
分野 | 企業 | 難易度 | 中級者向け(専修課程学生向け) |
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出版社 | 晃洋書房 | 発行年月 | 1999年3月 |
値段 | 3100円+税 | ISBN | 9784771010505 |
ページ数 | 252ページ | 判の大きさ | A5判 |
ビジネス倫理学は応用倫理学という研究分野に属する。応用倫理学は現代の具体的な倫理的問題を対象とするため、ケーススタディや公共政策への貢献などが中心になると考えられている。確かにこのような研究手法や活動が応用倫理学に占めるウェイトは大きいが、他方で当該領域におけるグランドセオリーを案出しようとする研究も存在する。企業倫理においてもそのような理論構築を志向する研究は存在する。たとえばもはや実務の領域にも定着した観のあるステイクホルダー・セオリーやCSR論といったものがそのような研究活動の中から生まれた成果といえるだろう。
著者は現代のビジネス倫理学理論研究の第一人者であり、ステイクホルダー・セオリーや統合社会契約論等を我が国にいち早く紹介した研究者である。本書の構成は第一章でビジネス倫理学における規範的アプローチと実証的アプローチの対立の問題を取り上げ、ビジネス倫理学の存在意義自体を問うところからスタートし、第二章で企業のモラル・パーソン論、第三章でステイクホルダー・セオリー、第四章で統合社会契約論をそれぞれ詳しく取り上げている。この流れは1980年代以降の北米を中心とした企業倫理学の展開に忠実に沿ったものであり、企業倫理学の論点の推移を俯瞰的に把握するのに大変有益である。また、各章の議論では、関連するビジネス倫理学者の主張を網羅的に取り上げられており、各理論についてほぼ完全に理解することができるレベルの高いサーベイ論文となっている。中でも第二章のステイクホルダー・セオリーの解説に関しては、ステイクホルダー・セオリーの提唱者であるエドワード・R・フリーマンの主張と、その批判的研究によってステイクホルダー・セオリーの彫琢に多大な貢献を果たしたK・グッドパスターとJ・ボートライトの研究が非常に適切に紹介されており、本章はステイクホルダー・セオリーの研究には必須の文献と言えよう。
また巻末にはビジネス倫理学関連の文献一覧と参考文献が記載されているが、本書発行年までの主要な文献が網羅されており、非常に便利である。 一言で言うなら、本書は企業倫理理論の研究における必須文献である。