企業倫理関係
[ 企業倫理をどう問うか グローバル化時代のCSR ]
梅田徹(著)
分野 | 企業 | 難易度 | 中級者向け(専修課程学生向け) |
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出版社 | 日本放送出版協会 | 発行年月 | 2005年12月 |
値段 | 970円+税 | ISBN | 9784140910511 |
ページ数 | 243ページ | 判の大きさ | B6判 |
筆者は日本の企業倫理研究において中心的な役割を果たしてきた麗澤大学企業倫理研究センターの副センター長(出版当時)である。本書の基本的なスタンスは「企業と社会の間で生起するさまざまな問題や企業行動について取り上げることで、一貫して企業倫理が重要であることを訴えていく」(「はじめに」より)というものである。したがって企業倫理の理論的な話よりも実例に大きなウエイトが置かれている。
本書が企業倫理を考える際の枠組みは企業の社会的責任(CSR)であり、企業の責任に関してさまざまな事例が考察されているが、他のCSRを扱った書物と異なるところは、副題が示すとおり、グローバル化のなかで国際的に活動する企業の社会的責任に関して適切なテーマ選択と突っ込んだ考察がなされていることである。ここではこの特徴が善く現れている二つの事例について簡単に触れておきたい。
第一に、多国籍企業の社会的責任と市民による監視というトピックを取り上げているところが目を引く。多国籍企業の非倫理的行為としてよく引き合いに出されるのは、開発途上国の下請工場における児童労働や過酷な労働(いわゆるスウェット・ショップ)であるが、この問題の難しさはこのような不当な労働行為を監視するシステムをどう構築するかという点にある。世界各地に数多く点在する零細下請工場の労働条件を監視するには膨大なコストを要し、その負担から企業による監視活動は困難だと言われている。そこで現在この問題を解決する有効な手段として注目されているのが、NGOやNPOを含む市民による企業活動の監視活動である。このような市民による企業活動の規制の重要性について、これまで我が国のビジネス倫理の書物ではあまり触れられることがなかったが、本書はいち早くその重要性を指摘しおり、慧眼と言うべきであろう。
第二にフェアトレードについて、先進国と開発途上国の格差の問題として言及していることが重要である。日本におけるフェアトレードの取り上げ方は、概ね大手小売店の先進的な取り組みとして紹介する形であったが、本来フェアトレードは国際貿易のあり方や国際農産品市場のありかたなどを含む非常に複雑な問題である。フェアトレードをグローバル化の中で国際的格差の問題として取り上げた点にこの本の先進性がある。
応用倫理の中でグローバリゼーションの倫理は現在ますます重要になりつつあり、ビジネス倫理も非常に密接に関係する。グローバル化がもたらす倫理的問題に関心がある人には、非常に有益な視点を提示してくれる入門書であると言えよう。