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企業倫理関係

[ 職業の倫理学 ]
田中朋弘

分野 経営 難易度 中級者向け(専修課程学生向け)
出版社 丸善 発行年月 2002年6月
値段 1900円+税 ISBN 9784621070581
ページ数 182ページ 判の大きさ B6判

丸善から刊行されている加藤尚武・立花隆監修の「現代社会の倫理を考える」シリーズの第五巻である。 本書は働くことの意味や意義について多角的な視点から考察した労作である。取り上げられるテーマは家事、ボランティアから売春の道徳性まで多岐にわたっており、それらの問題をアリストテレスからヘアに至る様々な哲学者の議論を援用しながら分析していく論理展開は見事である。  ビジネス倫理を「企業の役員や従業員として善く生きるとはどういうことか」という問題として捉えるならば、それは必然的に職業倫理の問題にたどり着く。そしてそこでの問いは「働くことの意味」の解明に向けられる。ビジネスという仕事の意味を問うことはビジネス倫理の重要な役割の一つである。

ビジネス倫理との関連で言えば、必読箇所は第十章「職業の倫理性」と第十一章「社会/組織/個人」である。第十章ではミドリ十字社による薬害エイズ事件や三菱自動車のリコール隠し事件などを題材に、なぜ企業で働く人が不正を働くのかという問題を考察する。企業倫理の本質的問題ともいうべきこの問いに対し、田中はその理由としてこの国において「信頼」や「誠実さ」といった道徳的価値が失墜していることをあげる。信頼や誠実さといった価値は社会関係の中でわれわれが努力して維持しなければならない価値であり、自分に信頼を寄せてくれる人々を想起し、経済的合理性の圧力に抗することの必要性が力説される。

第十一章では内部告発の道徳的評価が試みられているが、田中は内部告発の倫理的ジレンマである組織への忠誠と公衆への配慮の対立を、ヘアの直観的レベルと批判的レベルの枠組みを用いて分析する。田中の分析によれば組織への忠誠は直観的レベルでの倫理であり、公衆の利益のために組織への忠誠を放棄するという倫理的判断は、批判的レベルの倫理的思考によって初めて到達できる高次の倫理的判断なのである。あまたある内部告発に関する倫理学的分析の中でもこの主張は非常に斬新である。

最後に本書の実践的意義を記しておこう。われわれの多くは生きていくために何らかの形で働かなくてはならない。そしていかなる仕事に就いたとしても、労働の意味や意義を問う契機は存在する。本書は単にビジネス倫理の参考書としてだけではなく、働くこと一般に関する哲学書として読まれるべき良書である。