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生命倫理関係

[ 看護のための生命倫理 ]
小林亜津子

分野 生命 - 入門 難易度 初心者向け(教養課程学生向け)
出版社 ナカニシヤ出版 発行年月 2004年11月
値段 2400円+税 ISBN 9784782802106
ページ数 260ページ 判の大きさ B6判

本書は看護学生らを主な対象として書かれたものであり、他書に比べてより実務向き、臨床向きの内容になっている。特に、「看護者が、患者との関係で発生する倫理的トラブルに対して、的確で実際的な措置をとれるように、具体的な事例に則した対処法を共に考えていく」とあるように、看護の現場で直面すると思われる問題を中心に実際の事例を多く挙げた説明がなされている。それはたとえば第二章のトピックが「減数手術(多胎妊娠の場合に、母子の危険を避けるために母体内で一部の胎児を殺すこと)は許されるか」である点にも顕著である。このテーマは他の教科書ではあまり大きく扱われることの少ないものであるが、看護学校などで「印象に残ったトピック」を問うと常にトップにくるものであるという。また新聞や小説の引用などを利用しての印象的な場面描写も巧みに織り交ぜられており、実際に看護の現場に立つ、あるいは立とうとするものであれば胸に迫る物があるだろう。こうした生々しさは、問題を真に自分の問題として考えるために非常に有効なものとなっている。

また自ら考える学習の導きとして、各章の冒頭にはQUESTIONと題した問いが掲げられている。それぞれの問いで読者は病院に勤める人間として、倫理的なジレンマに直面させられることになる。その問いに応えることを念頭に置きながらその後に書かれた説明を読むことで、実際に自分がその場面におかれたならどうするか、という単なる知識の習得ではない学習が可能となっている。たとえば医療資源の配分の章では「あなたの勤務している病院では、慢性腎臓病の患者さんに使用する人工透析器が不足している」という事態が設定され、透析を受ける患者をどのようにして決めればいいか、と読者は問いかけられる。そしてこの事態が実際にアメリカで起こったケースであることが告げられ、現実の病院の対応が様々な角度から考察される。ここで読者も同時に自分の考えが妥当なものかということを検討することになるだろう。そして各種の選択肢を示された後で、読者は最後に再び、「臨床の場面で、こうした「配分」問題に直面したとき、あなたはどうするだろうか」と問われることになる。このようなプロセスを経ることで、読者は真剣に生命倫理の問題を考える訓練を積むことができ、実際の倫理的トラブルの典型的なケースについての判断の枠組みを身につけることができる。そうした能力は実際に医療の現場に出たときに必ずや当人、そして患者双方の大きな助けとなるだろう。