生命倫理関係
[ 入門・医療倫理(1) ]
赤林朗(編)
分野 | 生命 - 入門 | 難易度 | 初心者から中級者向け |
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出版社 | 勁草書房 | 発行年月 | 2005年10月 |
値段 | 3300円+税 | ISBN | 9784326101573 |
ページ数 | 360ページ | 判の大きさ | A5判 |
本書は医療倫理全般について倫理学理論から現実の問題までを広く体系的に扱ったもので、著者らによれば「現時点における日本の標準的で体系的な教科書を目指した」一冊である。本書は二部構成になっており、第一部「基礎編」では「倫理学の基礎理論」と「法と医療倫理の基本概念」を習得し、その後に第二部「各論」において生殖医療や終末期医療などの具体的な問題について考える作りとなっている。基礎編は抽象的な理論についての概説であり、予備知識を一切持たない初学者には若干理解しがたい箇所もあるかもしれないが、その通読によって各論がスムーズに把握できる構成となっている。たとえばまず基礎編の「倫理理論」の章に書かれた「功利主義」や「正義論」などの伝統的な倫理学理論についての概説を読んでおくことによって、その後の各論での具体的な問題、「医療資源をどうやって配分するか」などの問題を、各倫理学理論の応用に基づいて容易に、そしてより深く考察することができる。入門書でありながら、応用とのバランスをとりながら、こうした倫理学や法の体系を丁寧かつ平易に説明している点は、本書の重要な特色と言えるだろう。
また本書の対象は学生や医療従事者、医事法関係者、その他医療倫理学に関心を持つすべての読者となっているが、中でも実際に医療についての専門職や研究職にある人々に関係する論点を重視しているという点が、本書のもう一つの特色として挙げられる。「法」に関する概説が「倫理」と同じように重要なものとして扱われているため、医療従事者は自分の医療行為の倫理的な正当性に加えて、自分の行為が法的にどのように判断されるかということも考えることができる。また「医療従事者・患者関係」「医療事故と法」「研究倫理」などの項目は他の教科書ではあまり扱われていない物であるが、現場の人々にとってニーズの高いテーマであるだろう。「医療事故と法」の箇所では、医療過誤を起こしてしまった際の法律上の責任が、法体系の議論を基礎に丁寧に解説されている。従って本書は学生が講義で読むだけでなく、倫理学理論などに不慣れな社会人が一から倫理的な判断を行うための基礎とその実践力を身につける書としても充分な魅力を持つ一冊である。なお本書は(1)(2)冊組となっており、(2)は(1)の応用編と位置づけられている。やや難易度は上がるが、より深い知識を身につけたい読者は挑戦してみるのもいいだろう。