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生命倫理関係

[ 医療倫理 (一冊でわかる) ]
トニー・ホープ (児玉聡・赤林朗 訳)

分野 生命 - 入門 難易度 初心者向け(教養課程学生向け)
出版社 岩波書店 発行年月 2007年3月
値段 1500円+税 ISBN 9784000268912
ページ数 192ページ 判の大きさ B6判

本書の原書は「一冊でわかる」シリーズの一冊として2004年に出版されたもので、医療倫理の初学者に対する簡明で短い入門書である。とても薄い本であるため、具体的な論点を多数見ることよりも、厳選されたいくつかの一般的な例題を通じて、現実に医療現場でどんな倫理の問題に直面したとしても、自分自身の力で考え対応する力を身につけてもらうことに主眼がおかれている。本書によって読者は、医療の倫理を考える際に、まず自分の考えを整理し、そしてその筋道が正しいかを検討し、最終的に自分なりの考えを持って医療の問題に取り組む、その方法を学ぶことが出来る。通読することで読者はこの本の裏表紙にある「ちょっと待って、なぜあなたはそう判断したの?」という問いに、充分な理由を挙げて答えられるようになるだろう。

本書では具体的な事例の紹介よりも、一般的なケースを示すことに重点が置かれ、実例よりも思考実験が多く取りあげられている。それは、こういう事例に出会ったらこうせよ、というのではなく、どんな事例でも自らの力で考えることができる力を読者につけてもらう、という本書の目的からきている。たとえば安楽死の項目では「燃えさかる車の中で苦しむ友人を、射殺によってただちに楽にしてやるべきか」という思考実験が取りあげられる。そこで著者は、常識や一般的な直観、友人を撃つべきである理由、撃つべきでない理由を挙げ、それらのどこが間違っているかを示す。こうした思考実験を著者とともに行うことを通して、読者も自分の中にある常識や直観の何が正しく、何が誤っているのかを判断する術を学ぶことが出来る。そうした自分の考えを整理する能力を身につけることで、今度は現実に末期癌などで苦しむ人々を前に、どう行動するのが正しいのかを改めて考えることができるようになるだろう。

従って、本書は端的に進む方向を示してくれるものではない。しかしこの本によって進む道の選び方を学ぶことによって、読者は現実の医療現場での様々な分かれ道の前で、自ら歩むべき方向を決めることが出来る。だからこそ「一冊でわかる」医療倫理である。思考実験などの抽象的な議論が多い点で敷居は高いかもしれないが、実際に当事者達の様々な主義主張や常識などの声を聞けば聞くほどに、どの意見が正しくどの道を選ぶことが正しいのかを決められない、実際に現場にある真摯な医療従事者、そういった人達にこそ読んでもらいたい一冊である。