生命倫理関係
[ 医療倫理 ]
浅井篤・服部健司・大西基喜・大西香代子・赤林朗
分野 | 生命 - 入門 | 難易度 | 初心者から中級者向け(教養課程学生向け) |
---|---|---|---|
出版社 | 昭勁草書房 | 発行年月 | 2002年3月 |
値段 | 3000円+税 | ISBN | 9784326101382 |
ページ数 | 296ページ | 判の大きさ | A5判 |
本書は実際の医療従事者であり、かつ倫理学、哲学などの教育を受けてきた五人の筆者によって書かれた医療倫理の書である。そのため具体的で実践的な面と、一般的で理論的な面との両面について非常にバランスのとれた一冊となっている。内容は中絶や安楽死などの基本的な事項を押さえつつ、「医療現場を取り巻く問題」として、「ヒトに対する医学研究における倫理」「倫理委員会の機能:その役割と責任」などのやや発展的な議論もカバーした倫理学全般を扱うものである。医学生向けの講義用テキストとしても、また医療従事者が独学で学ぶための教科書としても、充分な質を備えている。
本書では19のテーマが扱われているが、それぞれの問題について、「1.要旨、2.目的・背景、3.問題の整理、4.倫理的考察、5.結語」という節が用意されている。このように各部分の論点が明確にされたプロセスにそって考えることで、初学者であっても問題の所在を簡単に把握し、理論的な部分もスムーズに理解できる構成になっている。各章末尾には「読者のみなさん、考えてみてください」というタイトルで問いが設置されており、読者は自分の意見を持って問題と向き合う力をつけることができるだろう。
こうした初学者への充分な配慮がある一方で、本書の最大の特徴は、著者らは単に基本的な事項の説明を行うだけではなく、「可能な限り『最も正しいと考えられる結論』を出すよう心がけた」ということにある。たとえばインフォームドコンセントの項で言えば、単にインフォームドコンセントとは何か、インフォームドコンセントは大切である、ということに留まらず、何故、そしてどのようなインフォームドコンセントが必要なのか、これからのインフォームドコンセントはどのようにあるべきなのか、というところまでが語られる。その上で読者は「インフォームドコンセントは今から百年後の医療の場にもあり続けているでしょうか」と問いかけられる。こうした構成は「正しい結論」を押しつけようというのではなく、自分と異なる意見と出会ったときに一度立ち止まり、なぜ筆者の立場に反感を抱くのかその理由をじっくり考え、それによって充分納得がいくまで議論をし、問題についてしっかりと考えてもらいたいという方針に基づいている。したがって本書は入門書でありながら、一歩踏み込んでの先端的な内容までをカバーする稀有な書である。この本を通読することで、読者は医療倫理についての本物の思考力を得ることができるだろう。