生命倫理関係
[ 生命倫理学を学ぶ人のために ]
加藤尚武・加茂直樹(編)
分野 | 生命 - 入門 | 難易度 | 初心者から中級者向け(教養課程学生向け) |
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出版社 | 世界思想社 | 発行年月 | 1998年1月 |
値段 | 2300円+税 | ISBN | 9784790706908 |
ページ数 | 352ページ | 判の大きさ | B6判 |
本書は人文科学の入門書として定評のある「学ぶ人のために」シリーズの一冊である。日本の生命倫理学の代表的な研究者らによって執筆されており、入門書でありながらも現場の医療従事者の関心にも耐えうるだけの十分なレベルをもっている。また各々の項目は10ページ程度に短くまとめられ、議論の全体像が掴みやすい。構成としては、まずどの項目にも基本的な「概念の説明」という項がおかれ、そこからこの概念を基礎としての現実的な問題への展開が述べられる。そのため読者は用いられている道具立てを十分に理解した上で、生命倫理学上の議論に自然に参加できるようになっている。たとえば「安楽死」の問題についても、まず「生命の神聖さと生命の質」という概念を簡潔な説明から理解した上で、実際に安楽死や尊厳死の議論を追うことで、安楽死の何が問題であるのかを読者が一緒になって考えながら読むことができる。
またそうした生命倫理学上の基礎的な概念の説明に加えて、「生命倫理学と現代社会」というパートにも十分なページ数が割かれているのが、本書の特色といえる。たとえば脳死問題についても、社会的な合意をどのように形成するか、日本人としての文化的背景をどのように考慮に入れるか、などの実際の応用を考える際にしばしば重要となる論点が、本書ではしっかりと扱われている。やや発展的な内容ではあるが、基礎的な概念の項から通して読むことによって、読者は生命倫理の問題をより多角的な視点で考える能力を養うことができるだろう。
本書は倫理学理論や原理原則を中心におく体系的なものではないが、その分どこから読み始めても生命倫理学の基本的な用語をバランスよく学ぶことができる構成になっている。まったくの初学者が読むには少々難しいかも知れないが、生命倫理学の講義の受講などと合わせて用いることで、問題の理解を確実に深めてくれる一冊である。各項目についてのちょっとした辞書代わりにも役立つであろう。