応用倫理のデータベース

Home > 応用倫理のデータベース > 生命倫理関係 > 生命医学倫理

連絡先

〒060-0810
札幌市北区北10条西7丁目
北海道大学大学院文学研究院応用倫理・応用哲学研究教育センター

Tel: 011-706-4088

E-mail: caep[@]let.hokudai.ac.jp

※@マークの[ ]を消したものがアドレスになります。

キャンパスマップ

生命倫理関係

[ 生命医学倫理 ]
ビーチャム、チルドレス (永安幸正、立木教夫訳)

分野 生命 -  難易度 中級者向け(教養課程学生向け)
出版社 成文堂 発行年月 1997年6月
値段 7000円+税 ISBN 9784792360641
ページ数 582ページ 判の大きさ A5判

本書は生命倫理学の教科書においてこの本に言及していないものは一冊もない、というほどの歴史的な基本文献である。いわゆる生命倫理の四原則と言われる「自律尊重」「無危害」「仁恵」「正義」による体系的なアプローチを具体化した書として知られ、その内容は生命倫理学全体に今なお大きな影響を与え続けている。訳者後書きによれば本書によって「ここに、生命の倫理的問題を議論するための典型的な基本的枠組みの一つが、確定されたのである」。

全体は八章から構成されるが、そのうち最初の二章は「道徳と倫理理論」「倫理理論の諸類型」として、倫理学一般についての解説となっている。そのため抽象的で難易度は高いが、この部分は医療の問題に限らない倫理学そのものの概論としても十分な内容を備えており、熟読することで読者は生命倫理のみならず、ビジネスエシックスなどの他の分野にも応用しうるだけの倫理的思考の基礎を身につけることができる。

三章以降ではいよいよ生命倫理の四つの原理が説明される。その際、それぞれの原理はどのようなものか、という原理の内容の定義がまず行われ、それからそれらの原理を実際に適用するとどのような事態が起こるのか、ということが具体例を交えながら展開される。たとえば「自律尊重」原理の項では、まず自律とはどのようなもので、どのような場合に自律が損なわれるのか、という説明がある。その後に患者の自律を守ろうとすると起こってくる問題として「インフォームド・コンセント」「医療情報の開示」「偽薬」などの論点が解説される。そのため読者は各々の問題を「自律」という原理のもとで体系的に理解することができる。逆に言うと、そうした問題に直面したときに、「自律の尊重」というキーワードを思い出すことで、事態に対処する能力を磨くことができる。

しかしながら本書はハードカバー二段組みで500ページを超える分量であるため、時間の無い社会人や現場に立つ医療従事者が最初から本書に挑戦するには勇気がいる。そのため他の入門書を読んでからより発展的な内容を求める場合に手に取るのがよいだろう。ただし生命倫理の研究者を目指す学生にとっては必読文献である。 なお2008年に原著は第6版が出版された。本書は1989年の第3版を訳出した物であり、最新の情報を求める場合には英語版を参照されたい。