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生命倫理関係

[ べてるの家の「非」援助論 そのままでいいと思えるための25章 ]
浦河べてるの家

分野 ケア - 入門 難易度 初心者向け(教養課程学生向け)
出版社 医学書院 発行年月 2002年5月
値段 2000円+税 ISBN 978-4260332101
ページ数 253ページ 判の大きさ A5判

べてるの家とは北海道浦河町にある精神障害をかかえた人たちの有限会社、社会福祉法人の名称である。本書はそのべてるに深く関わるソーシャルワーカーの向谷地生良やべてるのメンバー本人らによって執筆されたものであり、「シリーズ、ケアをひらく」の中の一冊として刊行されたものである。このシリーズは、「『科学性』『専門性』『主体性』といったことばだけでは語りきれない地点から<ケア>の世界を探る」という志のもとに編集されており、中でも本書は「患者に何かをしてあげる」という従来の医療のモデルを超え、病気も含めたありのままの存在を肯定するあり方を示したものとして、非常に評価の高い一冊である。「○○先生のおかげで良くなった」などという治り方は「もっとも良くない治り方」である、と向谷地は述べている。本当のケアとは何なのかを考える上で、是非一読してもらいたい一冊である。

本書は大きく五つの部分からなる。中でも、第二部は「苦労をとりもどす」として、病気を抱えたメンバーたちで会社を作り、自ら商売という困難な世界へと飛び込んでいった経験を語ることを通じて、人としてあたりまえの「苦労」をすることの意味、社会復帰という言葉の持つ意味を問う。そして圧巻の第三部は「病気を生きる」と銘打たれ、まさに病気を否定しない生き方を扱った部分である。特にここで扱われている「当事者研究」はその後、それを扱う独立した著作も発行されるなど、「べてる流」の中心となる概念の一つである。この当事者研究とは、精神病の当事者が仲間とともに主体的に、自分の生きづらさのメカニズムを客観的に「研究」し、生きづらさとの付き合い方を探っていくことである。読者は自らを語る当事者らの研究報告を通じて、医師による患者の病気の研究、医療従事者が一方的に与えるケアと、当事者自身を中心におくケアの違いについて考えさせられる。

本書で扱われている内容はともすれば重くなりがちなものだが、著者らの時にユーモアをも交えた柔らかな筆致で、全体にとても読みやすいものになっている。しかしそれでいて単に医療の枠を越えた人と人の付き合い方などについての深い内容を備えられており、読む側の感情が揺さぶられる箇所も多い。向谷地は後書きに「この本は、誰かを助けようという意図をもって作られた本ではない。……援助とはきっと、みずからに向けた<励まし>であるだろう」と書いている。確かにこの本を読んで直ちに、何かが実践できるようになるという性格のものではない。しかし本書を通じて読者はまず自らを励ますこと、そして誰もが自分を励ましながら生きることができるようになることのもつ意味に触れることができる。その点で、本書は医療従事者のみならずすべての人にとって助けになる一冊である。