生命倫理関係
[ 生命倫理の成立 人体実験・臓器移植・治療停止 ]
香川知晶
分野 | 生命倫理学 - 入門 | 難易度 | 初心者向け(教養課程学生向け) |
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出版社 | 勁草書房 | 発行年月 | 2000年9月 |
値段 | 2800円+税 | ISBN | 9784326153480 |
ページ数 | 262ページ | 判の大きさ | B6判 |
本書は学問としての「生命倫理」の形成史を扱ったもので、「生命倫理学」が何故、いかにして発展してきたのかということを、米国での歴史を中心に丹念に紹介した書として評価が高い一冊である。そのため具体的な医療の場面でどうしたらよいのか、という指針を与える書ではないが、他の入門書を通じて生命倫理学の体系に一通り触れた後でこの本を読むことで、読者は「生命倫理」の各理論体系を相対化し、それらの体系が何故生まれたのか、何を目指して組み上げられたものであるのかを理解し、そして最終的に生命倫理を論じることそもそもの意味と必要性を考えることができる。そのためこれから生命倫理を教えようという者にとっては必読書であり、またなぜ生命倫理などを学ばねばならないのかと思う学生、生命倫理など現実を無視した足枷でしかないと思う現場の医療従事者にとっては、倫理が本来持つ理念、切実さに気づかせてくれる良書である。
「生命倫理」が歴史の舞台に登場した理由はいくつかあるが、本書が最初にとりあげる要素は医学研究における人体実験の問題である。第二次大戦でのナチスの生体実験をはじめ、肝炎ウイルスやガン細胞を生きた人間に故意に注入した事件などの悲惨な事件を経て、医学が生命倫理を召還する様を本書は淡々と記述する。また第二の要素は医療技術の急速な発展がもたらした問題である。たとえば人工透析という技術が開発された当初、人工透析器の数は少なく、治療にかかる費用は極めて高額だった。そこで病院は治療する患者、つまり生かす患者を選択する必要にかられることとなった。さらに臓器移植にいたると、医師はある意味でドナーの命を縮めることにもなる。そして生死の決定の極地にあるのが、重度障害新生児の治療停止にかかわる問題である。医師はいったいどのようにしてこうした選択を行えばいいのか。本書ではこれらの事柄が実際に問題になったケースが具体的に挙げられ、それらの事例に対処するものとして生まれた外部観察者による道徳的方針の提示という方法、「生命倫理」の成立が示される。時系列、テーマ別に並べられた「生命倫理」の成立までの流れは非常に明快でわかりやすく、またこうした「生命倫理」の歴史を扱った書は他に類を見ない。個別の倫理学理論を扱った書とあわせて手元においてもらいたい一冊である。