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環境倫理関係

[ 1冊でわかる動物の権利 ]
デヴィッド・ドゥグラツィア(戸田清訳)

分野 環境 - 動物倫理 難易度 初心者向け(教養課程学生向け)
出版社 岩波書店 発行年月 2003年9月
値段 1,400円+税 ISBN 4000268651
ページ数 176ページ 判の大きさ B6判

本書はオックスフォード大学出版局の入門書A Very Short Introductionシリーズからの翻訳である。入門書という性格から、本書では動物倫理のトピック全般が簡潔にまとめられているが、著者は動物倫理の様々な議論の中立的な解説にとどまることなく「動物への平等な配慮」という著者自身の立場を固持して議論を進めている。そのため、本書は家畜や実験動物への非人道的な扱いについての多くの事例を挙げて動物福祉や動物愛護を煽るのではなく、動物の道徳的地位の根拠、倫理学の理論ごとに異なる動物の扱い、理性や苦痛といった動物倫理を論じるうえで鍵となる専門用語の説明といった、動物倫理の哲学的側面も解説されているという点で初心者には読み応えのある入門書である。

本書は七つの章からなり、前半の四つの章で動物を道徳的に配慮する論拠について説明し、残りの三つの章で工場畜産、動物の飼育(動物園とペット)、動物実験といった応用問題を扱っている。序論で、哲学史と各宗教における動物観と、ここ数十年の動物の権利への世界的な関心の高まりについて簡単に説明され、第2章以降で動物倫理の具体的な説明に着手している。そこでは、動物を「平等に扱う」ことと「平等に配慮する」ことの違い、動物への直接的な義務と間接的な義務との違い(第2章)、動物の感覚と感情(苦痛や苦悩、不安、恐怖)の有無(第3章)、動物の監禁や死を危害とみなす論拠(第4章)などといった、動物倫理の研究者の間でも意見の割れる問題が取り上げられている。

後半の三つの章では、家畜(第5章)、飼育動物とペット(第6章)、実験動物(第7章)への非人道的な扱いについての倫理的問題が論じられているが、これら応用問題と前半の「動物への配慮」の議論との結びつきが希薄になっている印象がある。とはいえ、膨大な動物倫理の議論を簡潔にまとめている点では優れた著作である。また、本書の末尾には訳者による邦語文献を中心とした動物倫理の文献紹介もあるので、本書をきっかけに動物倫理についての学習と理解の向上を期待できる。