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企業倫理関係

[ “ 企業の社会的責任論 “ の形成と展開 ]
松野弘 堀越芳昭 合力知工(編著)

分野 企業 難易度 上級者向け(大学院生向け)
出版社 ミネルヴァ書房 発行年月 2006年2月
値段 3500円+税 ISBN 9784623045853
ページ数 390頁 判の大きさ A5判

主として経営学の立場から、企業の社会的責任論の形成過程と多角的な視点からの研究成果を盛り込んだ内容の濃い専門書である。現時点での企業の社会的責任論(CSR論)の「総決算書」と言っても過言ではないかもしれない。

本書は大きく分けて「第Ⅰ部 基礎編」と「第Ⅱ部 研究編」の2部構成となっている。第Ⅰ部はCSR論に関する総論的な解説と、日米におけるCSR論の形成と展開を解説した論文で構成されている。このうちもっとも興味深いのは、第3章の「日本における企業の社会的責任論の生成と展開」である。われわれは、日本におけるCSR論はごく最近になって出現した新たな学問領域であり、欧米からの影響を大きく受けているという印象を抱きがちであるが、この章を読むと実際にはそうではないことがよくわかる。この章では現代日本におけるCSR論はその淵源を少なくとも1948年にまで遡ることができ、その後今日に至るまでさまざまな理論が提示されてきたことが明らかにされている。西洋倫理学をバックグラウンドに企業倫理研究を始める場合、これらの学問的業績への目配りはついおろそかになりがちであるが、そのような欠点を補うものとしてこの第3章の意義は大きい。

第Ⅱ部では企業倫理、ステイクホルダー論、CSP論、コーポレート・ガバナンス論、社会戦略、NPO論、環境会計という8つの視点からCSR論を構築する試みがなされている。どの視点からの論文においても非常に興味深い論考が展開されているが、ここではCSP論からのアプローチについて触れておきたい。CSPとは耳慣れない用語かもしれないが、「企業の社会的パフォーマンス」(Corporate Social Performance)の略語である。企業の社会的責任という規範的な概念は、現実的に受け入れられてはいるものの、具体的にはどのような行動を指しているのかという点では不明瞭である。CSPとはこのCSR論の不明瞭な部分を明確にするために創案された実証的研究領域であり、「何が企業の社会的責任の遂行(パフォーマンス)の鍵となっているのか」を特定し、企業の社会的責任の遂行状況を定量的に測定することを目的とするものである。このような実証的な研究は企業倫理の実践に関して非常に大きな意義を持っている。とかく内容がよくわからないといわれるCSRにおいて、われわれには確かに企業の倫理的活動を評価する指標が必要である。また企業倫理研究者がCSR論を深く研究するためには、このような実証的研究にも通じておく必要があるだろう。さらに本書では、CSP論以外にも企業倫理に関するさまざまな研究に触れることができる。この点で本書はわれわれに広い視野を与えてくれる貴重な道標であると言える。