応用倫理のデータベース

Home > 応用倫理のデータベース > 企業倫理関係 > ビジネスの倫理学

連絡先

〒060-0810
札幌市北区北10条西7丁目
北海道大学大学院文学研究院応用倫理・応用哲学研究教育センター

Tel: 011-706-4088

E-mail: caep[@]let.hokudai.ac.jp

※@マークの[ ]を消したものがアドレスになります。

キャンパスマップ

企業倫理関係

[ ビジネスの倫理学 ]
梅津光弘

分野 経営 難易度 初心者向け(教養課程学生向け)
出版社 丸善 発行年月 2002年6月
値段 1900円+税 ISBN 9784621049921
ページ数 186ページ 判の大きさ B6判

丸善から刊行されている加藤尚武・立花隆監修の「現代社会の倫理を考える」シリーズの第3巻。著者である梅津光弘は、シカゴロヨラ大学において企業倫理学で博士号を取得した、我が国における企業倫理学の第一人者である。

本書は大きく分けて「理論としての企業倫理」、「実践としての企業倫理」および「制度としての企業倫理」の三つの部分から構成されているが、どの章もビジネス倫理の理解を助けるための工夫が施されており、入門書としては非常にレベルの高いものとなっている。  「理論としての企業倫理」では、倫理学系の入門書のオーソドックスな手法にならって規範倫理学理論の解説がなされているが、従来の類書と異なり、功利主義や義務論に加えて倫理的利己主義やリバタニアリズムに触れている。ビジネス倫理の問題は営業の自由と公共の福祉の倫理的ジレンマに起因するものが多く、この点でフリーエンタープライズの理論的根拠であるリバタニアリズムに言及しているところはビジネス倫理の特性への配慮を感じさせる。

「実践としての企業倫理」の部分はケース・メソッドの手法を用いた討論形式の記述が採用されていて、取り上げられる具体的問題において対立する倫理的見解が非常に理解しやすくなっている。また題材もセクシャル・ハラスメント(従業員関連の倫理)、商店街への大規模スーパーの進出(地域社会の倫理)、開発途上国での児童労働(国際ビジネスの倫理)などバランスよく取り上げられており、ビジネスの具体的問題について俯瞰的な把握と理解が可能なものとなっている。

本書の特筆すべき特徴は「制度としての企業倫理」の部分である。ビジネス倫理における大きな実践的課題の一つに、巨大な影響力を持つようになった企業の活動に対して、その倫理性を担保するためにはどのような制度を構築するのが有効か明らかにすると課題がある。本書ではこの課題について企業内制度、民間支援制度、公的支援制度の三つの側面から望ましい制度のありかたを提示している。制度的な問題は倫理学系のビジネス倫理学が不得意としてきた分野であるが、本書では見事な整理がなされており、この方面の研究を志す人にとっては必読の内容と言える。