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企業倫理関係

[ 岩波応用倫理学講義 4経済 ]
川本隆史(編)

分野 企業 難易度 中級者向け(専修課程学生向け)
出版社 岩波書店 発行年月 2005年7月
値段 3400円+税 ISBN 9784000267175
ページ数 300ページ 判の大きさ A5判

岩波書店から刊行されている応用倫理学講義シリーズの第4巻である。タイトルからわかるとおり、本書が対象としているのは「経済活動のモラル」(腰帯より)であり、ビジネス倫理はその一部として扱われている。本書は「Ⅰ.講義の七日間」(編者川本隆史による講義形式の経済倫理概説)、「Ⅱ.セミナー」(経済倫理の様々なトピックに関する6つの論文)、「Ⅲ.問題集」(経済倫理の個別トピックについての短い考察集)および「Ⅳ.シンポジウム」(川本ら4人による経済倫理に関するディスカッション)の4つのパートから構成されている。ビジネス倫理については各パートで適宜触れられているが、もっとも参考になると思われるのは「Ⅱ.セミナー」に所載されている梅津光弘の論文「ビジネス倫理学の新展開 ―ビジネス倫理の制度化と価値共有の理念―」であろう。この論文ではアメリカにおけるビジネス倫理学の勃興過程と企業倫理が各個別企業の中で制度として確立されてきた歴史的経緯が詳しく述べられている。また後半ではこれまでコンプライアンス(法令遵守)型として形成されてきた企業内の倫理関連制度が、次第に価値共有型へとシフトしている点が強調される。これは従来企業にとって倫理的行動の確保は、企業から見れば外的なものである社会的規範や法令を守らなければならないという規制的な観点から理解されてきたのに対し、今日では倫理的価値を企業構成員が積極的に支持・共有しうる内的なものととらえ、それらの価値へのコミットを中心的な要素として効果的な企業内倫理制度の構築および倫理的行動の確保を図っていこうとする傾向が顕著になっているということを示している。この傾向を肯定的に捉える梅津は、企業倫理のあり方をカント的な普遍的な命法としての道徳的義務への服従というモデルではなく、モラル共同体としての企業ないしは経済社会に共有されている道徳的価値への参与というモデルに構築しなおそうとしているように思える。このように実践的な企業倫理と倫理学理論との関係を考える上で、この論文は非常に有益な論点を提供してくれる。

また「Ⅲ.問題集」のパートでは、企業倫理学において主要な論争点となってきた問題や、具体的問題に関して短くはあるが的確な考察が掲載されている。「企業は道徳的主体でありうるか」といった哲学的問題や企業の製造物責任や解雇の正当性などは企業倫理学において避けて通れないテーマであり、これらのテーマの論点を把握する上でこの問題集は非常に有益である。