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企業倫理関係

[ 企業倫理 ]
D・スチュアート

分野 企業 難易度 中級者向け(専修課程学生向け)
出版社 白桃書房 発行年月 2001年3月
値段 3000円+税 ISBN 9784561131410
ページ数 275ページ 判の大きさ A5判

米国の応用倫理学者デビッド・スチュアートの著作Business Ethics(1996)の翻訳書である。デビッド・スチュアートの専攻は哲学であり、本書のスタンスは倫理学の見地からの議論を中心とするものとなっている。

本書は3部から構成されており、第1部では主に徳倫理、功利主義、義務論などの倫理学理論が扱われる。第2部は「社会の中の企業」という表題の下、顧客・従業員および環境に対する倫理的問題が考察されている。第3部「企業の中での倫理的行動」では、善良な人がなぜ不正を行なうのかという問題のほか、内部告発と国際的な倫理問題(文化的相対主義)が取り上げられている。

本書の最大の魅力は第3部の第8章「善良な人々がなぜ不正を行なうのか」に見られるような立論のスタイルにある。企業倫理の問題の多くは、普段は善良な人々がひとたびビジネスの問題に遭遇するや不正行為を行なうことを厭わなくなるという形を取っているが、スチュアートはこの問題を実存主義の倫理的概念を用いて分析する。通常類書では、この問題はビジネスにおいて私利や私益を守ろうとする自愛心と、他者の権利や利益に配慮するよう促す利他心の葛藤として捉えられ、ビジネス活動は前者の自己利益の追求を強く要求する活動であるため、善良な人であっても非倫理的行動を行なってしまうのだという心理学的な分析で片付けられがちなところである。しかし、スチュアートはこの単純な問題構成をとらず、人間の規範的価値観の歪みを実存主義から詳しく分析する。この分析が果たして妥当なものかは意見の分かれるところであるだろうが、このような経営学的な企業倫理へのアプローチにはない哲学・倫理学的アプローチの利点は、企業倫理の諸問題をわれわれの生き方を導く倫理的価値の観点から考えることができるという点にある。そして哲学的アプローチは、ビジネス活動もまた人間の生の一つのあり方であり、倫理の外側に、倫理と対立する形で存在するものではないということに気付かせてくれる。

ビジネス活動を、倫理にとって外的であり、倫理によって外から規制されるべき活動とは捉えず、それ自体倫理性を含んだ人間の活動形式の一つであるという観点からビジネス倫理を考えたい人にとって、本書の立論スタイルは大きなヒントとなるだろう。