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企業倫理関係

[ 経済倫理のフロンティア(シリーズ人間論の21世紀的課題 第8巻) ]
柘植尚則 田中朋弘 浅見克彦 柳沢哲哉 深貝保則 福間聡(著)

分野 企業 難易度 中級者向け(専修課程学生向け)
出版社 ナカニシヤ出版 発行年月 2007年11月
値段 1900円+税 ISBN 9784779501470
ページ数 175ページ 判の大きさ B6判

ビジネス倫理、あるいは企業倫理に比べて「経済倫理」というタームは耳慣れない用語かもしれない。本書によれば経済倫理は企業倫理やビジネス倫理、あるいは職業倫理をその一部として含む広いものである。「・・・経済倫理は、経営や企業、職業だけではなく、市場や経済制度も扱う。それは、経済全般に関する倫理的な問題について考えるものである。(中略)経済倫理は、人間の善き生という観点から経済のあり方を考察し、それに基づいて経済におけるルールや義務を検討するものと言える」(「まえがき」より)

企業倫理やビジネス倫理を研究していくとわかることだが、企業構成員の倫理的な振る舞いを考えることは、必然的に経済社会一般のルールや義務について考えることにつながっていく。例えば従業員に対する企業の倫理的責任について考えるとき、われわれは必然的によく働くとはどういうことか、とか人間生活における労働の意義や意味とはなにかということを考えざるを得ない。なぜならば、企業が従業員に対し倫理的に対応するということは、従業員が抱いている労働の意義や意味を尊重し、従業員の価値ある労働を実現することを含んでいるからである。労働という行為は経済的行為の一類型であるから、この例から企業倫理と経済倫理は密接に関連していることがわかるであろう。

本書で取り上げられている経済倫理の対象は、労働、企業、消費、市場、制度、福祉の6つである。いずれのテーマについても、各テーマにおける倫理的問題が過不足なく平易に解説されており、経済倫理の初歩を理解するにはうってつけの入門書に仕上がっていると言える。なかでも興味深いのは消費の部分である。経済活動の中で、消費はもっともその哲学・倫理学的考察が遅れていた領域であるが、本書では過剰な消費活動の原因が、実は自律や個人のアイデンティティといった伝統的な規範概念にあるという主張が展開されているが、このような消費に対する哲学的考察はビジネス倫理のなかではほとんど省みられてこなかったといってよいだろう。企業倫理では消費者は重要なステイクホルダーとして扱われてはいるが、消費と言う経済活動が人間の生にとってどのような意義を持ち、かつ現在どのような状況になっているのかという視点から本格的に論じられたことはほぼないに等しい。この意味でこの消費に対する論考は、企業倫理における消費の問題に新たな視角を提示するものといえよう。

他のテーマに置いても同様に従来にない新たな論点が数多く提示されている。その意味で本書は、定型化・硬直化してきたビジネス倫理の思考枠組に新風を吹き込む力を秘めている貴重な書物であると言えよう。