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企業倫理関係

[ 現代の企業倫理(静岡大学人文学部研究叢書15) ]
田島慶吾(編著)

分野 企業 難易度 中級者向け(専修課程学生向け)
出版社 大学教育出版 発行年月 2007年3月
値段 2200円+税 ISBN 9784887307421
ページ数 243ページ 判の大きさ A5判

本書は静岡大学の人文学部所属の経済学、経営学、会計学を専門とする研究者によって書かれた企業倫理の教科書である。本書の狙いは「実証科学的企業倫理」(まえがきより)のテキストを作成することにあり、哲学的な議論は「第1章 企業倫理」で規則功利主義の考え方が紹介される程度に留まっている。以降本書で取り上げられるテーマはコーポレート・ガバナンス、世界経済と企業倫理、情報と倫理、環境問題、多国籍企業、グローバル化、社会的責任投資(SRI)などとなっており、書名が示すとおり現代の比較的新しい企業倫理のトピックを取り上げる形となっている。

それらのトピックの中で、新たな問題の枠組みを提示していてとりわけ興味深いのは、第5章の「企業と情報をめぐる倫理」と非正規雇用の問題を扱う第7章「人材多様化戦略と企業の社会的責任」の2つである。第5章では、現代においてはITの利用が社会経済活動上不可欠の要素となっていることを踏まえた上で、企業と情報の関係は以下の三種類に整理される。①情報利用者としての企業。ここでは企業の違法な手段による情報入手や不正なステイクホルダーの情報利用が問題になる。②情報発信者としての企業。ここでは発信する情報の正確性や情報の隠蔽などが問題となる。③情報流通者としての企業。ここでは通信事業者における加入者のプライバシー保護等が問題となる。このような問題の整理を踏まえて、企業が情報に関して倫理的行動を確保するためには、技術的な対策とともに、情報関連従業員の職業的倫理観の涵養が重要であることが強調される。

第7章では日本における非正規雇用の普及が働き方の多様性へのニーズを満たすという肯定的な側面がある反面、賃金抑制等の「行き過ぎた利益至上主義」を招く危険があるとの認識が示される。そのうえでいわゆるワーキング・プアや労働の二極化などの問題が問うているのは企業がどこまで労働者に対する生活保障役割を果たすべきかという企業の社会的責任であるという主張がなされる。さらにこの問題は、企業の責任と共に、不安定な非正規雇用者を支援する社会的システムの必要性をも示しており、企業と社会の責任分担の明確化が求められているという結論が導かれる。

情報と非正規雇用の問題は、まさに本書の懸念が的中する形で大きな社会問題となっており、この問題への対応を考える上で非常に有益な議論を提示しているといえる。これらの比較的新しい問題に関心がある人には必読の一冊である。