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企業倫理関係

[ 企業の社会的責任(CSR)の徹底研究 ]
デービッド・ボーゲル 小松由紀子・村上美智子・田村勝省(訳)

分野 企業 難易度 中級者向け(専修課程学生向け)
出版社 一灯社 発行年月 2007年1月
値段 2200円+税 ISBN 9784903532295
ページ数 368ページ 判の大きさ B6判

「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility: CSR)」は現在では広く認知されている。その基本的な考え方は、企業は利潤創出だけでなく社会的問題の解決についても責任を負うというものである。しかしCSRは多くの支持を集めているものの、この考え方に基づく企業活動が現実に有効に機能しているのかどうかがよくわかっていない。ビジネス倫理学のみならず応用倫理学一般において、ある問題についての実情がどうなっているかを知ることは重要である。ビジネス倫理学はCSRをおおむね肯定的にとらえているが、現実にはどれほど有効なのか。そして有効でないとすれば、それは何が原因なのか。このような現実の把握はビジネス倫理学に実践性を求める観点からは不可欠である。

本書は「CSRの可能性と限界について、首尾一貫した有益な外観と分析を提示すること」を目指すものであり、発展途上国の労働条件、環境および人権に関する企業の対応とその問題点を描き出している。著者のデービッド・ボーゲルによれば、CSRは調査の対象となった各分野で一定の成果をあげているが、その範囲は限定的であり、CSRを目的とした活動に力を入れる企業が市場で生き残れるほど普及しているわけではなく、現状のままではそうなる見込みも少ないという。その理由としてボーゲルは(1)CSR実践に要するコストはかなり高額であるとともに、それを価格に転嫁しようとしても、消費者がその転嫁を負担する可能性が低い、(2)CSR活動はブランドにダメージを受けやすい有名大企業などが積極的に実行しているが、それ以外の企業は特に積極的にCSR活動を行わねばならないインセンティブがなく、結果そういった企業の方が価格優位を保てる、という2点をあげる。

このような状況を変えるために必要なこととして、ボーゲルは企業に対する政府の規制強化をあげる。不当な労働条件や環境破壊行為をより強力に政府が規制すれば、CSRに取り組む企業が高コストに苦しみ、取り組まない企業が低価格により優位に立つという状況は是正されるというわけである。そしてボーゲルはこのような規制の強化を政府に働きかけることも企業の重要な社会的責任であると主張する。 ビジネス倫理においては、企業に対する政府規制は企業活動の自由を阻害し、結果として社会全体の経済効率を悪化させるという考えは根強い。またこの見解はビジネスにおいてCSRに熱心な企業を支援する活動(社会的責任投資や社会的責任購買)が、CSRの普及をもたらすという考え方を否定しているようにも見える。ビジネスにおける政府の役割や、消費者の役割や責任といった論点に関心がある人に一読をお勧めしたい。