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企業倫理関係

[ 資本主義に徳はあるか ]
アンドレ・コント=スポンヴィル 小須田健・C・カンタン(訳)

分野 企業 難易度 中級者向け(専修課程学生向け)
出版社 紀伊國屋書店 発行年月 2006年8月
値段 2000円+税 ISBN 9784314010108
ページ数 306ページ 判の大きさ B6判

ビジネス倫理学の教科書をみると、冒頭で「ビジネスは倫理的でありうるか」というテーマを扱っていることが多い。そこでの議論はたいていの場合倫理的なビジネスはありうるとかビジネスの実践にとって倫理は不可欠であるといった主張につなげられていくのであるが、本書の著者アンドレ・コント=スポンヴィルはビジネスもしくは経済に倫理が内在的に存在しうるという見解を断固として拒否する。コント=スポンヴィルによれば、経済とは反道徳的というより非道徳的なものであり、道徳的要素はその中に全く含まれてはいない。では経済と道徳はどのような関係にあるのか。コント=スポンヴィルは、道徳とは経済とは全く異なる秩序に属するもので、経済の暴走を外側から制限するものである。コント=スポンヴィルによれば、秩序の体系には4種類あり、それぞれは科学‐技術的秩序、法‐政治的秩序、道徳の秩序、倫理(もしくは愛)の秩序と呼ばれる。経済は科学‐技術的秩序に属しており、それ自体の中に経済活動を制約するものを持ってはいない。この秩序の中では可能なことはすべて行われる。そしてそのような活動は非常に大きな害悪を引き起こすことがある。これを制限するのは、法‐政治の秩序であり、法‐政治の秩序の暴走(たとえば合法的な卑劣漢)を制約するのがさらにその外にある道徳の秩序である。さらにこの道徳の秩序も不適切な事態を生み出すことがある(たとえば義務には従うがそれ以外は何もしない人間)。最終的にこの道徳の秩序の暴走を制限するのが倫理(愛)の秩序である。このようにコント=スポンヴィルは道徳ないし倫理(愛)は経済とは全く別の秩序に属し、外側から経済や法、政治の暴走を制約するものと位置づける。

ビジネスの倫理を考える人々の中で、経済活動の倫理性は何らかの外側からの制約によって確保せざるを得ないと考える人は少なくない。たとえば『ザ・コーポレーション』を著したジョエル・ベイカンは、企業とは本質的に非倫理的に行動する存在であり、これを防ぐには、その存続の判断を含めて企業を民主的な政治的統制下に置く必要があると主張したし、企業には社会的責任などなく、責任を持つのは自然人だけだと断言したミルトン・フリードマンにもコント=スポンヴィルの見解と共通するものがあるように思える。

コント=スポンヴィルがその主張の中で強調しているのは、経済(資本主義)の原理が道徳的な地位を占めるという誤解は避けねばならないということと、道徳や倫理の担い手はわれわれ個人一人ひとりであって、企業のような経済組織にその行使を委ねてはならないということである。組織に対峙する個人の道徳性を重視する考えは一読に値する。