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生命倫理関係

[ 生命倫理学入門 第2版 ]
今井道夫

分野 環境-リスク論 難易度 上級者向け(大学院生向け)
出版社 昭和堂 発行年月 2007年11月
値段 4,300円+税 ISBN 9784812207390
ページ数 386ページ 判の大きさ A5判

本書は環境倫理と科学技術政策の分野で著名な研究者シュレーダー=フレチェットの主著である。現代の科学技術の進歩はわれわれに豊かさを与える反面、われわれの生命や健康、自然環境を脅かす可能性もある。本書で著者は、こうした科学技術の「リスク」を評価する試みの根底にある政治的、哲学的、倫理的問題を解明し、われわれの社会がいかにしてリスクを管理すべきか、という問いに取り組んでいる。

著者が議論の矛先を向けるのは、ある科学技術を社会に導入すべきか否か決定するために実施されるリスク評価の方法論についてである。このリスク評価については、人体や環境へのリスクは計算することができ、こうした科学的データに基づいて科学技術政策や環境政策を実施すべきと考える見解が支配的である。著者は、本書の全体を通じて、このリスク評価の科学的方法論が却って人々の安全や環境を脅かす恐れがあると指摘している。例えば、第10章では、先進国が危険な科学技術を発展途上国に移転させてきた問題が取り上げられている。その結果、発展途上国の人たちは、先進国の人たちよりも高い基準で、アスベストや農薬、有害廃棄物などの環境リスクを負うことになる。著者は、こうした技術移転には安全への道徳的権利の侵害や不十分なインフォームド・コンセント、先進国の道徳的責任といった倫理的問題があると論じる。専門家によるリスク評価の様々な問題点の指摘を通じて、著者はより民主主義的なリスク評価および管理のあり方を提起する。

本書では、原子力発電や有害廃棄物、農薬、化学工業など様々な科学技術が引き起こしてきた危害についての膨大な事例研究が取り上げられ、著者はこれらの事例を科学哲学や倫理学、統計学、経済学といった幅広い研究分野の観点から分析している。そのため、本書は初心者にはやや難解であるが、事例研究を読むだけでも十分に科学技術の環境や健康へのリスクについての理解を深めてくれるだろう。原著の出版が1991年であるが、その議論が近年注目を集めるようになった遺伝子組換え技術やナノテクノロジーの問題にも当てはまるということは、著者の洞察の深さを証明しているように思える。