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生命倫理関係

[ 脳神経倫理学の展望 ]
信原幸弘・原塑編著

分野 脳神経科学 - 入門 難易度 初心者向け(教養課程学生向け)
出版社 勁草書房 発行年月 2008年8月
値段 3000円+税 ISBN 9784326153978
ページ数 357ページ 判の大きさ B6判

本書は脳神経科学にまつわる倫理的問題を包括的に扱った概説書である。現代の最先端科学によって得られた脳神経についての知見をわかりやすく解説し、さらにそこから生じる典型的な倫理の問題を幅広く扱っており、初学者が一から脳神経倫理について学ぶのに最適の一冊である。

本書は三部から構成されている。第一部は「脳神経倫理学とは何か」というもので、読者はまずこの部分を通じて脳神経倫理学の歴史や成立過程、その内容や射程についての基礎的な知識を習得することができる。これによって脳神経倫理学の独自性、つまり脳神経倫理学には、我々の脳神経についての研究を倫理学的に検討する側面、それと同時に脳神経についての研究から得られた情報によって倫理学自体を検討する側面がある、ということが理解できるようになっている。続く第二部は「脳神経科学の技術的応用をめぐる倫理的問題」と題され、脳神経についての研究がもたらす情報によって引き起こされる倫理的問題が五つの観点から論じられている。たとえば脳活動から心を読み取る技術が発達するとプライバシーの問題はどうなるのか、頭を良くする薬や記憶を消去する薬が普及した場合、社会にはどのような影響があるのか、などである。それぞれのテーマは難解な専門的内容に偏りすぎることなく、初学者にもわかりやすく解説されており、脳科学に対する基礎知識がなくても、議論の中身が追えるように配慮されている。そして第三部は脳神経科学が人間観にもたらす影響を扱う。たとえば道徳的な判断をくだすことや道徳的な感情、責任や刑罰も最先端科学によって脳の活動の点から説明された場合、我々の人間観、道徳観は根底から変わらざるを得ない恐れがある。

脳神経倫理学という分野はまだ生まれて間もないものである。しかしまた科学が発展するにつれ、今後ますます重要性を増していく分野であることには疑いがない。この新しい時代の倫理に対応するために、その成立、歴史から展開、現状と問題点までをいち早く網羅した本書はまたとない道しるべとなるだろう。