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生命倫理関係

[ ケアの倫理 ]
森村修

分野 生命 - 入門 難易度 初心者向け(教養課程学生向け)
出版社 大修館書店 発行年月 2000年4月
値段 1800円+税 ISBN 9784469264418
ページ数 237ページ 判の大きさ B6判

本書はケアの倫理が意味するものについて易しく述べた一般向けの書である。しかし他のケアをテーマにした入門書と違って、ケアの内容は医療倫理に限定されない。一般には「ケア」というと健常な人が病気の人の世話をする、というような医療上の関係が想定されることが多い。しかし著者は、私たちは誰もがまわりの人たちからの「ケア」を必要としている、と述べる。私たちはそれほど強くない、私たちは傷つきやすい存在であるという前提に立って、著者はケアを「他者全体にかかわるもの」として定義する。本書には「生老病死をめぐる倫理的諸問題に対して、自己や他者への配慮・気遣いとしての『ケア』という観点から、哲学的・倫理学的に答えようと試みた」とあるが、この本を通じて読者は単に医療行為としてではなく、まさに傷つきやすい自分と他者とに向けるべきまなざしというものからケアを考えることができる。

本書は全三章からなり、第一章は「生きることの倫理」である。ここでは、死の意味や健康の定義を考えることを通して、身近な存在をなくした人の感じる「悲嘆」が扱われる。全体として文章は極めてわかりやすく、随所に見られる著者の個人的な体験や講義での学生とのやりとりなどを元にした記述には知らず知らずのうちにひきこまれる。中でもペットとの死別、ペットロスを大切な人を失った時と同じように大きく扱っていることは、本書の特徴のひとつである。死別や喪失は生きる上で避けて通れないものであり、そうした体験によって悲嘆に暮れている他者、あるいは自分に私たちはどのように向き合えばよいのか。そのヒントがケアにある、と著者は考える。第二章は「ケアの倫理」である。この章ではまず、ケアという概念の歴史が簡潔に、学説上の重要な議論を丁寧に押さえて説明される。そして次に、PTSDに悩む人々、心に、体に痛みを抱えた人々、高齢者へのケアが論じられる。何かを失って、私たちは「それでも生きていく」しかない。そうした「生きていかなければならない」私たちにできることは、互いに支えあうことである。第三章は「支え合うことの倫理」である。この章はやや抽象的な内容となっているが、共感という言葉を元に、自分と他者の関係、そして互いを支え合うことの意味が問われる。ここにいたって読者は「人間の傷つきやすさへのケア」こそがケアの根本であるということが理解できる。ケアに関心を持つ人はもちろんのこと、そしてすべての傷つきやすい人たちに読んでもらいたい一冊である。